熊炭備忘録

思った事を徒然と書きたい

池島炭鉱、第一立坑の謎(3)


f:id:kuma438:20170320223314j:image
f:id:kuma438:20170320223320j:image
さて、反対側に伸びたメインロープの先には謎の巻き上げ機……*1

 

……コレ、メインロープの交換用の巻き上げ機じゃね?

 
f:id:kuma438:20170320224006j:image

(何回目だろこの図)

エレベーターを繋ぐメインロープ、このロープは直径六センチ程度と太いものの、数年程度で交換が必要な消耗品*2であり、直線上に交換用のロープを巻き付けるドラムや巻き上げ機を配置して云々かんぬんして交換するのです。

 

詳しくは多趣味型北海道人様のブログをご覧下さい

立坑櫓のメンテナンスとは?【2】 : LOST COAL MINE

 

さて、この巻き上げ機、本当にメインロープ交換用の物なのか?交換用の巻き上げ機だったとして何故この形で放棄されているのか?

 

……これらの疑問について池島炭鉱に勤めていた職員に取材したところ、意外な事実が判明したのです。

 

  • Q.あの第一立坑の真横にあるドラムの巻き上げ機、あれはメインロープ交換用の物なのか?
  • A.確かにあの巻き上げ機はメインロープ交換用の物だ。

 

  • Q.では何故メインロープがあの形のまま放棄されているのか?
  • A.そりゃあ、立坑の点検に使ったからよ

 

……んんん?立坑の点検に使った?

 

実はこの第一立坑、池島炭鉱が閉山する十年以上前から使われなくなっていたのです。

 

第一立坑完成から暫くして、石炭の産出量が増え、かつ採掘場所がどんどんと深くなっていき第一立坑だけでは効率が悪いという事で第一立坑より深い場所と連絡する、第二立坑が建設されました。

f:id:kuma438:20170320230404j:image

この第二立坑、第一立坑とは違いエレベーターで運ぶものを人だけに限定することで効率化を図ったものです。では石炭はどうやって地上に上げてたのでしょうか?

 
f:id:kuma438:20170320232650j:image
f:id:kuma438:20170320232408j:image

答えは立坑とは別に傾斜をもったトンネル、斜坑を作りその中の石炭を地上に運び出すベルトコンベアを設置することです。

ベルトコンベアは立坑と違い、連続して石炭を運ぶことが出来るため立坑よりも効率が良いです。

このベルトコンベア斜坑と第二立坑の完成により、第一立坑は仕事を失い昭和五十年代後半には運搬立坑としては用途廃止となりました。

用途廃止されたのに点検の必要があるのだろうか、という疑問が産まれますがここで第一回を思い出してみてください。

 

 

第一立坑は運搬立坑ですが、同時に排気立坑をも兼ねるのです。運搬機能は廃止しても排気の機能は必要であったため、立坑はその後も閉山まで残されたのです。

話は立坑の点検に戻ります。

他のトンネルと同じように立坑も壁にヒビが入ってないか、崩れてないかなどの点検が必要になります。通常ならエレベーターに乗って低速運転を行い、点検作業を行うのですが……


f:id:kuma438:20170320234004j:image

(写真は赤平炭鉱の巻き上げ機)

運搬立坑用の巻き上げ機、写真の用に巨大であり、かつ凄まじい電力を食うわメンテが必要だと年に数回の点検だけに使うとなると非常にコスパが悪いことに気付きました。
f:id:kuma438:20170320234510j:image

そこで、目をつけたのがロープ交換用の巻き上げ機でした。適度な小ささであり、点検要員を乗せるだけなので過度な負荷はかからない、低速運転で良いのでドラム式の巻き上げ機でも十分に速度が確保できるなどの理由から、メインの巻き上げ機からロープを外し、片方のエレベーターの籠を撤去した上で排気立坑の保全用に採用されたのです。

 

このような理由から、池島炭鉱の第一立坑は妙なメインロープの懸かり方をしていたと言う訳なのです。

 

*1:しかもディスクブレーキ……大型巻き上げ機にディスクブレーキを採用する利点って何でしょうね

*2:数百~数千メートルの長さであるため、一本数億円する炭鉱で最も高価な消耗品